トウガラシとパプリカのハイブリッド”プリリータ”

トウガラシとパプリカのハイブリッド”プリリータ”

トウガラシは交雑しやすい。

そんなおとぎ話を聞いたことがある人もいるだろう。

トウガラシと交雑したピーマンは辛くなる、そんな迷信も広く布教されている。

ピーマンはそもそもカプサイシンを作る能力が欠如しているため、トウガラシが授粉しても辛味成分が作れない。

辛味が出たのであれば親世代ですでにトウガラシと雑種化したと考えられる。

そう、トウガラシは交雑しやすいから。

だがトウガラシは交雑しにくいのだ。知能が足りなくて意味が分からない人もいるかもしれないが、

トウガラシとピーマンは基本的に同種であり、同種間の交配は交配と呼び交雑とは呼ばない。

品種間交雑は交配である。

しかしトウガラシにはトウガラシ以外のトウガラシが存在する。

例えば有名なものを挙げればハバネロやキャロライナリーパーなどがあるが、これはシネンセ種(人によってはチャイネンセと読む)

激辛トウガラシと呼ばれるもののうち、いわゆるトウガラシ型をしていないデコボコな果実をしているものはだいたいシネンセ種である。

世界一辛いトウガラシとされるペッパーXもこのタイプだ。

確かSNSでペッパーXを栽培していた方に問い合わせて破格の高値で頂いた物。

画像が無断転載されているが、本物だかは分からない。

半信半疑で栽培してみるとマジで黄色く育った上、キャロライナリーパーより辛いかもしれない辛さではある。

現在冬越しして3歳だが、一年目と2年目で果実の形が異なったのが面白い、2年目は大きくてピーマンに似ていた。

他のトウガラシで言えばイエロースコッチボンネットにも見えるため、いつかアメリカのエド・カリーに本物かどうか聞いてみたい。

むしろエド・カリーから本物を買いたい。

シネンセ種についてはこんなもので良いだろう。

ちなみに現地の読みではHはいらない子なので、ハバネロはハバネロではなくアバネロになると言う。

他に有名なのはフルテッセンス種だろうか?

つまりキダチトウガラシだ。

キダチトウガラシもシネンセ種と並び激辛トウガラシとされるが、キダチトウガラシとシネンセ種はそもそもが近い種類であり野生種はほとんど見分けがつかないという。

キダチトウガラシで有名なのはやはり島トウガラシである。短日性が強く本土では秋まで咲かないこともある。

実は細かく分類すると、沖縄の島トウガラシには複数の系統があり、花の色や模様が若干異なるようだ。

最近ではとんがらし芥川から買った苗からとった種子を転売しているのか、硫黄島トウガラシがオークションでみられる。

これもおそらく島トウガラシの一種と言えるだろう。

いずれ沖縄をくまなく探して、島トウガラシの研究もしていきたい。

まぁ、島トウガラシ以外ではタバスコが有名か、タバスコにはイエローもあり一昨年それを栽培していた。

キダチトウガラシの中では栽培しやすく、島トウガラシより実がつきやすい。

タバスコは激辛だがシトラス系のフルーティーな香りが素晴らしい。

島トウガラシ、タバスコときたらあとはタイのプリッキーヌだ。

プリッキーヌには様々なタイプがあるが、簡単に言えば極小の果実が無数に実る背丈の低いトウガラシである。

キダチトウガラシは短日性が強いが、プリッキーヌはほぼ短日性がなく春から秋まで実が付くので

家庭菜園にはかなりオススメだ。

極小だが激辛なので1粒でも普通のトウガラシより辛い。

シネンセ、フルテッセンスときたらあとはプベッセンス種、つまりロコトだろうか。

ロコトは紫の花が咲くトウガラシで、ウルピカなどから改良されたと言われている。

種が黒く、寒さに強い反面暑さに弱いのが特徴だ。

アンデスの原住民は庭先にロコトを植えていて、何を食べるのにもロコトを齧りながら食べるという。

果肉が厚く、辛味が強いのが特徴で、中に具材を詰めたロコト・レジェーノという料理が有名。

つまりロコトはパプリカのようにおかずとしても食べる辛いトウガラシということだ。

ちなみにロコトやウルピカは葉も辛い個体がいるので注意が必要。

他にはアヒ・アマリージョなどアヒの名がつくトウガラシはバッカタム種に属する事が多い。

日本ではほぼ見られないが、ロコト以外ではバッカタム種がアンデスのトウガラシの主流といえる。

甘い香りが特徴で、シュガーラッシュという甘そうな名前がつきながら、激辛な物があったりする。

俺は見た目が普通のトウガラシでほどほどに辛いアヒ・デライトと辛くないアヒ・ノルテノがお気に入りだ。

バッカタムの中でもペパデューはロコトのような形で肉詰めやサルサに利用されるため、ペパデューを使ったサルサのビン詰めから種子がとれたりする。

トウガラシやトマトは基本的に乾燥品、ビン詰めから容易に種子が得られるので、種子が手に入らなかったら食品として探すのもアリだ。

まぁ他にも沢山のトウガラシがあるが、普通のトウガラシ、アンヌーム種と並び人間に利用されるのは、

ハバネロなどのシネンセ種

タバスコなどのフルテッセンス種

ロコトなどのプベッセンス種

アヒ・アマリージョなどのバッカタム種

この4種になる。

栽培種は5種類のトウガラシから成るということだ。

トウガラシは交雑しやすいというが、別種同士だととたんに難しくなる。

例えばシネンセ種のキャロライナリーパーとアンヌーム種のパプリカであるガブリエルを交配したが一果も実らなかった。

この組み合わせは交雑しても、ハイブリッドがつけた種子がほとんど発芽しないため次世代が出来にくい組み合わせとされている。

アンヌーム種のピーマンであるカリフォルニアワンダーとプベッセンス種のロコトとの交雑実験では、交配後の花にジベレリン処理して、無理矢理ある程度成長させた後に胚を取り出して培養することでハイブリッドが得られたという。

つまりいわゆるトウガラシであるアンヌーム種は特に交雑しにくいということになる。

だがしかし、生物には時として中間種というものがあり、様々な種に別れる前の原種に近い種がある場合、その種は数多くの近縁種と交雑しやすい。

トウガラシの場合は、それがキダチトウガラシだ。

栽培種のどの種とも交雑事例がある。

ということはトウガラシは交雑しにくいが、キダチトウガラシは交雑しやすいということになる。

ただ今挙げた例は全て一例にしかすぎず、あなたが交雑させたタイミングと組み合わせ、気温などの環境、花粉や雌しべの状況その時その瞬間だけで交雑が成功するという可能性もある。

今これを読んでいる人の中で品種改良をしてみたい人がいるならば、

誰かが出来ないと言った組み合わせでも自分だけには出来るかも知れないという考えで、ダメ元の組み合わせでも思い付いたら試してみると良い。

もしかしたら君がその瞬間だけは天才かもしれないのだ。

現にトウガラシでは交雑が上手く行かないはずのアンヌーム種とシネンセ種の特徴を持つ品種が見つかっている。

ネパールのダレ・クルサニだ。

丸いトウガラシで、シネンセの特徴なのかかなり辛いらしい。

ネパールの品種には様々な種の交雑由来と見られるものがあり興味深い。ってトウガラシの本に書いてあった。

そう、これらのことを踏まえてトウガラシの交配にはまずキダチトウガラシを利用することにした。

俺が利用したのはキダチトウガラシでありながら短日性のないプリッキーヌだ。

短日性がないため花が咲くのが早く、秋まで咲き続けるため交配のチャンスも多い。

背が低いのも管理がしやすく利点だ。

プリッキーヌに交配したのはアンヌーム種であるパプリカ、セニョリータパプリカだ。

セニョリータパプリカは甘いが、トウガラシと交配すると胎座だけほのかに辛い、トウガラシにはキセニアはないとされ、花粉の影響は果実に現れないと言われるが、パプリカは違うのかもしれない。

とは言うものの、元はと言えばパプリカは胎座が辛いため、パプリカの原産地であるハンガリーでは胎座を取り除いて辛味を無くすという特許をとった人がいたという。

つまりパプリカは本来辛いのだ、セニョリータにわずかでもカプサイシンを作る能力が残されていても不思議はない。

セニョリータを選んだ理由はロコトに似ているから、肉厚で丸いトウガラシが欲しかったのだ。

そうして生まれたのがプリッキーヌにセニョリータを交配した”プリリータ”だ。

プリリータはプリッキーヌほどではないがかなり背丈が低く開張性で、プリッキーヌよりはるかに大きい果実をつけた。

プリッキーヌはこんなものだ。

プリリータの形はかなりパプリカに近い、だがしかしプリッキーヌ以上に激辛なのだ。

パスタに入れるならプリリータ1粒でちょうど良い辛さになる。

ただ、生で使う場合には普通ピーマンのように種を取り除くと思うが、種がついている胎座をとってしまうとまるっきり辛味を失い、ただのパプリカに成り下がる。

胎座にのみ辛味があるので出来たらまるごと使うのが良いだろう。

乾燥品は何故だか高級感がある。

四角い形に乾燥しやすいからだろうか?

ドライにしたプリリータをペペロンチーノにすると、胎座の辛味がオイルに移り、プリリータ自体には辛味が無くなる。

辛味が無くなったプリリータはドライトマトのような甘味があり、普通の乾燥トウガラシより味が良い。

つまりドライプリリータは調味料にも食材にもなるわけだ。

プリリータは生でも甘く、甘いミニトマト並みの糖度がある。

果肉の生食も全然美味いのだ。

ただ、胎座にちょっとでも舌が触れると涙が出るほどに辛い。

プリリータは越冬させたので現在も枯れずに生きている、秋につけた実を冬の間落とさず春にまた成長をはじめたのが面白い。

実験の結果フルテッセンス種とアンヌーム種のハイブリッドは容易だった。そこで、更にシネンセ種であるペッパーX(仮)を交配したのがこの果実だ。ペッパーXでも偽物のスコッチボンネットでもどちらでもシネンセ種には変わりない。

しかもきちんと発芽した。これでアンヌームとフルテッセンスのハイブリッドにはシネンセが交雑出来たわけだが、ここにバッカタムやプベッセンスを交配出きるだろうか?

それを試すのが今年の目標である。

最終的に目指すのは寒さで枯れず、管理しやすいほどほどに辛い肉厚なトウガラシかな。

ついでに辛くないのも作る予定。

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