ラズベリーの交配、品種改良のこれまで

ラズベリーの交配、品種改良のこれまで

ラズベリーとは何か

まずそこから話す必要がある。

ラズベリーとはキイチゴのうち、花托から果実が奇麗にもげるものをいい、果実と花托が一体化したものはブラックベリーということになっている。

ただ、最近ウルトララズベリーという名前で販売されているラズベリーとは香りと味が異なるキイチゴが存在する。

ブラックベリーかラズベリーかで言えばラズベリーではあるが、その中では特殊な香りを持つクマイチゴの1種である。

問い合わせたらクマイチゴ主体に2〜3種交配したものだと返答を頂いたが、恐らく憶測で返答をよこしたのだろう、100%クマイチゴの特徴しかない。

ウルトララズベリー及びクマイチゴはクマをおびき寄せるためか、悪く言えば漂白剤のような、良く言えば栗の雄花の様な香りを果実と樹液に持つため、ラズベリーの華やかな甘い香りを期待すると損をする。

ただし糖度はラズベリーより高い

と、言うと凄く感じるかもしれないが、日本の野生キイチゴのほとんどはラズベリーより糖度が高い。

記事の頭に貼った画像はクサイチゴにカジイチゴを交配したものだが、クサイチゴの時点で糖度16〜18、カジイチゴは16〜23の糖度が出る。

日本のキイチゴで最も甘いのはカジイチゴと言えよう。

ただカジイチゴは香りがほぼ皆無なので甘いだけでそれほど美味いとは感じない。

砂糖水を飲んで美味いと感じないのと同じだ。

黄色に赤い点があるイクラのような果実が特徴だが、トゲが無いことや葉の形状の特殊さが目立つ。

オークションなどでラズベリーの名前で販売されているものがカジイチゴである場合があるので、注意が必要だ。

対してクサイチゴはイチゴのような香りを持ち、糖度もメロンや巨峰くらいにはなる。

とはいえ糖度はカジイチゴには敵わない。

とりあえず中学生の頃にクサイチゴとカジイチゴを交配したが、それは近所にはえてたからだ。

結果はクサイチゴに見た目と香りが似るが、未熟果でも全く酸味がない甘い果実をつける直立するキイチゴが生まれた。

これをクサカジと名付けたが、

去年新たに画像の対馬産の黄実のクサイチゴとカジイチゴを交配してみた、画像の果実が歯抜けなのは黄実のクサイチゴとカジイチゴの交雑親和性がそれほど高くないからだ。

カジイチゴからのトゲ無し遺伝子への期待もあるが、カジイチゴの長い花期を受け継いで欲しかった。

そして黄実のクサカジが生まれたらイエローラズベリーと交配し、イエローラズベリーをよりイエローにするのが目的である。

イエローラズベリーは黄色く完熟せず、オレンジ〜黄土色になるため、黄色く完熟するイエローラズベリーを作りたい。

イエローラズベリーとモミジイチゴを交配したことが何度もあるが、その組み合わせでは種子がとれなかった。

まぁそれは置いといて、クサカジには更に果実が大きく張りがあるリュウキュウバライチゴを交配した。

クサカジは果実内の粒数が多いが、リュウキュウバライチゴは一粒一粒の肥大率が高い。

そうして生まれたのが沖縄ハイブリッドキイチゴである。

中でも個体識別名レイトは糖度が高く、最高で糖度21程度、最低で糖度15程度にまでなる。

果実もそこそこ大きい。

リュウキュウバライチゴの肥大率と暑さへの強さ、クサイチゴの粒数と香り、そしてカジイチゴの糖度を持ったのが沖縄ハイブリッド“レイト”だ。

これ程美味いキイチゴは他にない。

ただ開花が早く、他のキイチゴと交配しづらいのが沖縄ハイブリッドの難点だ。

そして沖縄ハイブリッドのレイトにラズベリーのグレンモイを交配したのがこのデュエである。

デュエは沖縄ハイブリッドより花弁が細長く、葉の中央に後ろ向きに伸びる小葉が出てXのような形になるのが面白い。

味や果実はほとんど沖縄ハイブリッドとかわらなかった。

ただ沖縄ハイブリッドは花托から果実が少し浮くが、デュエは果実が花托に密着しているというラズベリーの特徴を一応持つ。

糖度は16〜17だが、糖度21に達したレイトは初年度の糖度が15だった。

デュエも母親同様に株が充実したら糖度が上がるのであれば将来レイト以上の糖度になるかもしれない。

ところでクサイチゴとカジイチゴのハイブリッドを作ると

クサカジのように直立して1メートルくらいになり、クサイチゴの見た目の果実がつくトヨラクサイチゴ型が出るが

他にカジイチゴに似て赤い実がなるハチジョウクサイチゴというキイチゴが存在している。

ただ、ハチジョウクサイチゴにはほとんどトゲがなく、若いシュートや葉の裏にしかトゲがない。

だがしかしクサイチゴとカジイチゴを交配すると、どちらが母親でも凄まじいトゲを持った個体が生まれるのだ。

だからハチジョウクサイチゴはクサイチゴとカジイチゴの雑種1代目ではなく、雑種2代目以降の個体が広まったものである可能性が高い。

見た目は赤い実がなるカジイチゴだが、香りはレモネードで糖度は16程度にはなる。

そして、ラズベリーとハチジョウクサイチゴを交配したうち、ラズベリーが母親で生まれた個体が

個体識別名オジサンである。

なぜオジサンかと言えば、ハチジョウクサイチゴから半トゲ無しの遺伝子を受け継ぎ、根元の3節以外にトゲが出ず、更にはラズベリーの遺伝でハチジョウクサイチゴにある葉のトゲが消えた。

そのため足元のみスネ毛が生えて、頭はツルツルということでオジサンと名付けた。

識別番号がOG3だったわけではない。

オジサンの素晴らしいところは6月から12月まで咲くため、冬イチゴ系との交雑を試すことが出来ることだ。

冬イチゴは秋に咲いて冬に熟すタイプのものだが、フユイチゴも10月末に咲く絶滅危惧種のシマバライチゴも二季成りラズベリーとの交雑は成功しなかった。

ただ、ラズベリーとハチジョウクサイチゴのハイブリッドであるオジサンは

絶滅危惧種であるシマバライチゴとの交配に成功したのだ。

こうして生まれたのがベニテングだ。

ベニテングはシマバライチゴのようなツル性でトゲはシマバライチゴより弱くラズベリーに近い。葉は中間と言って良いだろう。

もしこれらがオジサンと同じく二季成りならはじめは春ではなく新しく出たシュートから秋に開花する、一季成りなら春に開花する。

二季成りラズベリーを作るならこの点を忘れてはならない。

春に咲かないやつを捨てるのではなく、春に咲かないやつが秋に咲くのだ。

ちなみに雑種1代目から二季成りは出るため、二季成りと一季成りの交配で二季成りが出なかった場合

春咲かなかったからと二季成り個体を捨てて、初開花が春である一季成り個体を残していることになる。

シマバライチゴハイブリッドラズベリー“ベニテング”はラズベリーに似るはずだが、もし高品質な果実が実れば

近いうちに販売されるかもしれない。

本当は長崎県の人が長崎県で利用してくれたら良いんだけどね。

沢山稼いで沢山下さい。

ただ、育種素材としての利用は俺以外にはよほどキイチゴに造詣が深い人でなければ恐らくできない。

なぜならベニテングは4倍体であるため、通常のラズベリーやキイチゴと交配して生まれるのは3倍体。

キイチゴの3倍体は完全に果実が実らないのだ。

俺は今年4倍体ハイブリッドラズベリーを他にも作るため、ベニテングもそれとの交配を予定している。

じつはオジサンが生まれたときに、同じ組み合わせで母親と父親を逆にしていたものがあるのだが、

母親がハチジョウクサイチゴで父親がラズベリーになるのが、このホットペッパーだ

ラズベリーが母親であるオジサンとは全く姿が異なる。  

ホットペッパーは未熟果がトウガラシの色だからホットペッパーと名付けられた。完熟すると宝石のような透通った赤になり、キイチゴ界1の美しさをもつ。

木は強く直立し、オジサンや母のハチジョウクサイチゴと異なりトゲが凄い。

葉はクマイチゴに似るが先端がとがる。

他にはラズベリーの亜種で純粋な国産野生キイチゴであるエゾイチゴを利用したりした。

エゾイチゴは北海道の雪に耐えるためか4メートル近くになり花が花火のように無数に咲く。

これは北海道の大雪山産の識別名ヒグマ1号。

オジサンとホットペッパーの結果でわかると思うが、キイチゴは母親に似る

だがしかし例外が存在するのだ。

エゾイチゴを母親に、クサイチゴを父親にしたものはエゾイチゴのラズベリー型果実ではなく、クサイチゴのバライチゴ型果実をつける。

エゾイチゴ×クサイチゴの識別名はペウレプと名付けた。

確かペウレプは子グマという意味だったと思われる。

姿形は幼苗はクサイチゴとエゾイチゴの中間だが、成木になるとバライチゴに似る。

ペウレプは味が良く、クサイチゴより果肉が硬いので食べごたえがある。

そして赤の色素が濃く、ベリーソースにするとフレーズピューレ並に赤い。

エゾイチゴ×ナワシロイチゴ

どっかの大学が作ったラズベリー×ナワシロイチゴの近江キイチゴというものがあるが、エゾイチゴはラズベリーの亜種であるためそれに似た交配だ。

ラズベリー系とナワシロイチゴは花期が同じであるため、近江キイチゴ程度の交配は幼稚園児レベルに簡単である。

幼稚園児のみんなは近くにナワシロイチゴが生えているなら、ラズベリーと交配してみると良い。

エゾイチゴ×ブラックベリートリプルクラウン

ラズベリーとブラックベリーのハイブリッドといえばタイベリーやボイセンベリーなどのグループだが、

ラズベリーではなくエゾイチゴでやったらどうなるかの実験。

エゾイチゴに似るタイプと、やたら葉がギザギザになるタイプが生まれた。

実はラズベリー×ハチジョウクサイチゴのオジサンの兄弟にはオレンジに熟すイエローラズベリー

識別名ミカンもいる。

オジサンほど花を咲かせず、花は少ないが一応二季成りである。

味は良いが大株にならないと本領発揮しないだろう。

一応冒頭に書いたクマイチゴも交配に利用したことがある。

赤紫の花が咲くRubus odoratusがなかなか果実をつけないため、その花粉をクマイチゴやハチジョウクサイチゴにつけてみたのだ。

ハチジョウクサイチゴハイブリッドは節間が短く根も短く、ジベレリンの合成機能に欠陥があったのかずっと小さいままで枯れていった。

逆にクマイチゴハイブリッドは大きな葉で旺盛に生育し、桃色の花を咲かせた。

それでモモクマと名付けたのだ。

モモクマは花弁、樹液、花粉などから、クマイチゴにある漂白剤のような香りを発する。

他にも色々構想はあり、黒いキイチゴも作りたい。

クロイチゴとRubus niveusの2種類を利用したい。

ただクロイチゴはトゲが強く、またniveusもワタリガニくらいトゲトゲだ。

クロイチゴは果実が小さすぎるという欠点があるが、niveusは糖度18に達し果実は引き締まって硬い、そして味は完全にモミジイチゴだ。

まぁ他にもあるが今回はここまでにしておこう。

色んな大学で野生キイチゴの育種素材としての利用が検討されていたり

キイチゴは交雑が容易であるという間違った認識が広まっているが

恐らく日本で俺以上にキイチゴの交雑、キイチゴとラズベリーの交雑を研究しているものはいないだろう。

海外からキイチゴのことでDMが来ることもあるが、日本語でよろと言いたい。

俺のキイチゴで世界中のラズベリーを駆逐してやる。

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