イチゴの交配、品種改良のこれまで

イチゴの交配、品種改良のこれまで

ピエロイチゴ

日本には沢山のイチゴがある。

とちおとめ、あまおう、さがほのか、紅ほっぺ

最近では群馬県が赤実の古都華、桃色の淡雪、白実のパールホワイトをセットにして販売していたりする。

ただ、君たちはこれらのイチゴはどんな味がすると思う?

そう、イチゴの味にイチゴの香りがするのだ。

そもそもイチゴとは何か?栽培イチゴは風味が良いFragaria virginianaと果実のサイズが大きいFragaria chiloensisとのハイブリッドである。

どちらかと言えばFragaria chiloensisにより近い。

ただし、Fragaria chiloensisは様々な果実サイズの系統があり、最近稀に見る白い果実のパインベリーなどは本来はFragaria chiloensisである。

更にパインベリーにもいくつもの系統があり、日本で手に入るのはオランダの種苗会社が交配したホワイトソウルという品種で、自家受粉しない。花粉が少ないと書かれているがそもそも雄しべが退化しているのだ。

他には普通のイチゴサイズのカロライナホワイトなどが海外のマーケットでは手に入るかもしれない。

実は日本でもホワイトソウルが出回る前にパインベリーの種子がオークションで出回っていたが

これは完全にワイルドストロベリーサイズにしかならないが、自家受粉はしていた。

このオランダの種苗会社からはパインベリーの他にストラスベリー、バブルベリーなどがベーカーズベリーと称し販売されていたが、ベーカーズベリー社という会社の名前だった。

しかし、だ

ベーカーズベリー社のイチゴは総じて花粉が少なく自家受粉性が著しく低い。

日本でそれ程定着していないのはそれも理由の1つだろう。

ただし、その後にストラスベリーは自家受粉性が改善されたフランベリーが開発されており他の品種も日本では聞かないだけで自家受粉性が改善された品種があるかもしれない。

ところ変わって日本にも変わり種の品種がある。

それが桃薫だ、桃の香りがするとされるやや希少な品種だが糖度が高く酸味が程良いため味は良い。

病気にも強いが、最近ではイチゴ狩り園での活躍が主に思える。

そんな桃の香りの由来となったイチゴがFragaria nilgerrensisである。

中国雲南省の白い果実のイチゴだ。

これが桃薫の桃の香りと桃色の由来となった野生種になる。

桃香

ただ、桃薫が生まれる以前に桃香という品種があったのを忘れてはならない。

桃香はFragaria nilgerrensisととよのかのハイブリッドである。

桃香のほうが白に近い果実だが、くぼみがありボコボコとした果実であるために果形の悪さを改善するため、

新たにFragaria nilgerrensisとカレンベリーの交雑種を作り桃香と交配したのが桃薫であると言う。

カレンベリーは強くて枯れないことから枯れんベリーと名付けられたというから、耐病性の獲得なども見込まれていたのだろう。

ここまで丁寧に説明してきたのには理由がある、ここから先の話しは地球人にはどんどん理解が出来なくなってくるほど複雑だからだ。

理解できた人は宇宙人なので地球人とはちょっと距離をおいたほうが良いかもしれない。

で、だ

Fragaria nilgerrensisを栽培種であるとよのかやカレンベリーと交配するのは容易だが、その子はベーカーズベリー社のイチゴのように雄しべが退化し果実が実らなくなる。

ではなぜ桃香や桃薫が自家受粉するのか

それは倍数性が関係している。

簡単に言えば染色体のセット数みたいな感じだ。

栽培イチゴは8倍体であるFragaria virginianaとFragaria chiloensisのハイブリッドで8倍体。

Fragaria nilgerrensisは2倍体。

ハイブリッドは5倍体になるため繁殖が不能になる。

説明するとイチゴ野生種には2倍体、4倍体、6倍体、8倍体の野生種が存在する。

性染色体が奇数になると減数分裂出来なくなるため生物は繁殖できなくなることは中学で習っただろうが

正にそれである。

そして桃香や桃薫は10倍体なのだ。

そう、8倍体栽培イチゴと2倍体野生イチゴのハイブリッドは親から半数ずつを受け継ぎ5倍体になるが、それは繁殖が不能なものの5倍体を倍化して10倍体にする術があるのだ。

それがコルヒチン処理である。

コルヒチン処理とはコルチカム(イヌサフラン)から抽出されたコルヒチンを用いると、植物の細胞が分裂するときに正常に分裂できずに染色体数が倍化してしまうのだ。

人間が摂取すると適量だと痛風の特効薬になるが、元々猛毒であるため多分天国か地獄の扉が開く。

宇宙語なので上手く説明できてるか分からないがまぁそんな感じだ。

例えばブルーベリーも同じでハイブッシュブルーベリーは4倍体、ラビットアイブルーベリーは6倍体、野生種は2倍体

ハイブッシュを暑さに強く土壌適応力のあるラビットアイと交配したサザンハイブッシュには4倍体品種と5倍体品種がある。

素直にハイブッシュとラビットアイを交配したものが5倍体サザンハイブッシュだが、花粉どうこうよりも寿命が短く突然死することがあったといい

それを改善するためにラビットアイを一度2倍体野生種と交配することで4倍体を作り、それから果実品質の良いハイブッシュと交配したものが4倍体サザンハイブッシュであり、これが現在のサザンハイブッシュの主流なのだろう。

はい、ここまでがこの記事の序章です。

ここまでは小学生向けですね。

というかここまでが常識か。

俺は当初イチゴは全く興味がなかった。

そりゃ美味いイチゴやマズいイチゴはあるがイチゴはイチゴの味しかしない。

イチゴを超えたイチゴが無いのだ。

だが桃薫の発明により日本のイチゴ界は変わった、そして海外ではもっと多くの野生種がイチゴの交配に利用されている事を知った。

如意棒が伸びるが如く俺のイチゴに対する視野が広まったのだ

そして暑さに強い四季成りイチゴと桃薫を交配し四季成りイチゴを作ろうと思ったが、果形の悪い半四季成り桃花の自家受粉しないイチゴが生まれた。

計算上9倍体であるため花粉は出来ないが、ベーカーズベリー社の品種のように他の品種からの花粉で果実はついた。

自家受粉しないため完全メス性なのでジャンヌ・ダルクからジャンヌと名付けた。

ジャンヌは暑さに強く味は良かったが、イチゴハナゾウムシにやられ滅びた。

同時期にヨーロッパの6倍体野生イチゴFragaria moschataを育成していた。

moschataの名の通り香りが特に優れる野生イチゴで、アントシアニン含有量が高いのかかなり色が濃い。

それをジャンヌの親である四季成りイチゴと交配した。

そうして生まれたのが暑さに強く、イチゴハナゾウムシにも負けず、完全にFragaria moschataから味と香り、そして色素を受け継いだ

四季成り桃花イチゴのピエロである。

ただ2つ謎がある、

1つ目は栽培種は8倍体であり、Fragaria moschataは6倍体野生種である。

計算上奇数の7倍体になるはずだが、ピエロは自家受粉するのだ。

何事にも例外があるが、かつて流行った桃花イチゴの先駆けでイチゴと別属の植物とのハイブリッドであるピンクパンダも7倍体で果実がつくので

そこに秘密があるかもしれない。

2つ目の謎は、ピエロの親は8グラムにしかならない四季成り栽培イチゴと、3グラム程度のFragaria moschataだが、ピエロは12〜20グラムくらいになる。

親が野生種と小果の四季成りイチゴであるにもかかわらずピエロは紅ほっぺ程度の果実をつけるのだ。

そして1年遅れて作っていたのが、Fragaria nilgerrensisの桃の香り、Fragaria moschataの蜂蜜のような甘い香りを受け継ぐ香り高い8倍体品種だ。

ただし、Fragaria nilgerrensisの桃の香りは優勢遺伝してしまい、子は皆が桃の香りで桃色になってしまう。

それでは桃薫と変わらず何も面白くない。イチゴ!の香りを主体に持ちながらnilgerrensisやmoschataの香りを持つイチゴを超えたイチゴなイチゴを作りたかった。

そしてまず桃薫にmoschataを交配したのがコレである。

うん、クソだな。

1年で芽が6分けつくらいしてしまうので1芽から出る葉や花が細かく小さくなり、果実はワイルドストロベリーサイズだった。味は桃薫と変わらない。

だが、トンビはタカを産むのだ。

いやトンビはタカを産まないけどトンビからタカが生まれるようなミラクルは起きる。

そもそも10倍体の桃薫に6倍体のmoschataを交配して8倍体を作ってしまうという天才の所業、ミラクルが起きないわけがない。

この8倍体ハイブリッドイチゴは手の指のように分けつするためグローブと名付けたが、ここに分けつが少なく香り高い栽培イチゴの越後姫を交配した。

だがしかし、交配して発芽した苗はことごとくダンゴムシに食われ、唯一生きのこったのがこの個体。

一族最後の生き残りということでクラピカと名付けた。

ちなみに俺の名付けは品種名ではないので出回るときには名前が変わるので注意。

クラピカは糖度が高く、はじめは桃の香りとは行かないがnilgerrensis由来のココナッツの香りが漂い、越後姫の強いイチゴの香りが主体だが、最後にmoschata由来の蜂蜜のような甘い香りが余韻を引き伸ばす。

香りのグラデーションがある奥深いイチゴが生まれた。

優勢遺伝しやすいnilgerrensis由来の香りが残りつつ、越後姫がしっかり香り、最後にムスクストロベリーとも呼ばれるmoschataが現れるのがポイントである。

さすがダンゴムシセレクト品種、ダンゴムシ選抜もアリかもしれない。

多くの地域で栽培すれば地域ごとに香りが異なったりブルゴーニュワインにおけるピノ・ノワールのように地域差を楽しめるイチゴになるだろう。

ただ、ピエロと異なり暑さに弱くほとんどが滅びてしまった。

1箇所試験栽培している場所があるようなので生き残っていれば寒冷地に移してから皆のもとに流通するだろう。

とはいえクラピカパターンのイチゴはこれからなん系統か作る予定ではある。

みんなの応援具合によっては複数品種を一気に世に出すこともあるだろう。

応援よろしくな!

遠慮なく何億円くれてもいいんだぜ。

そして俺には疑問が残った。

倍数性が奇数になり、花粉が作られない個体もベーカーズベリー社の品種のように他花受粉であれば果実がつくのだ。

その種子は発芽するのだろうか?

バナナやスイカは3倍体になると種子が成長せず種子の名残りである椎なが1ミリくらいの粒として残るが

花粉が作られない倍数性が奇数のイチゴがつける種子は正常に見える。

そうして9倍体で自家受粉しないジャンヌに7倍体のはずだが自家受粉するピエロを交配した。

種子は問題なく発芽し、四季咲きで自家受粉することが判明した。

それがニコラである。

名前の由来はジャンヌ・ダルクに詳しい人なら分かるかもしれない。

ニコラは糖度がかなり高く、ジャンヌから桃の香りを受け継いでいた。

ということは例えば5倍体のnilgerrensisハイブリッドをコルヒチン処理で10倍体にせずとも

5倍体nilgerrensisハイブリッドに栽培種を交配した種子を蒔けば自家受粉する正常な個体が得られるかもしれないということだ。

そうして生まれた子の倍数性が気になるが、まぁ果実をつけるなら問題はないだろう。

俺のイチゴ物語はひとまず終わり。

ただ今年は白イチゴの作出をはじめておくのと、国産野生イチゴを用いた品種の作出を目指す。

そして先ほど書いたクラピカパターンの復刻。

以上、宇宙語の講義でした。

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