広い広い宇宙の中でひときわ輝く青い星“地球”
ここには6つ、もしかしたら7つの大陸と小さな島々が点在している…
その小さな島の一つがこの日本、別名ジパング。
そしてこの大魔王、マッド菜園ティストHI-Dが暮らす魔界の入口が首都東京である。
この小さな島国で未利用の野生種、忘れ去られた古い品種などを品種改良に利用し、新たな植物を創り出しているのがこの俺だ。
既存の品種を滅ぼし俺の品種で世界の種苗を塗り替える、世界征服が俺の行動原理。
まぁ、割りと普通に言えば野望ってやつさ。
なぜそのような品種改良の方法を用いるかといえば、イチゴとイチゴを交配してイチゴをつくれば美味しいイチゴを作ることが可能かもしれないが、イチゴとイチゴの交配でイチゴを超えたイチゴを作り出すことは困難であろう
栽培イチゴより優れた特長がある野生種を使えばいわゆるイチゴの域を超えたイチゴが生まれるかもしれない。
イチゴで言えば桃の香りがする桃薫などが良い例だ、あれは雲南の野生種が交配に利用されている。
ただ、日本で主流な品種改良はちょっと良い特長を持つ個体の選抜を続けちょっとずつ良い形質を蓄積させ良い特徴を持つ系統を作るという果てしなく時間がかかる手法で、なおかつ既存の品種のマイナーチェンジ版しか生み出すことはできない。
ゆえに品種改良は難しい、品種改良は個人には不可能だ。というイメージが強い。
だがどうだろう?栽培種より果実がはるかに小さいが、栽培種より優れた特徴を持つ野生種を栽培種と交配したとしたら。
美味くすれば1度の交配で、栽培種である親から受け継いだサイズと野生種である親から受け継いだ栽培種より優れた特徴を持つ品種が生まれるかもしれない。
品種改良の父とも呼ばれるルーサーバーバンク博士の書籍を読み込めばわかるが、彼が行っていた品種改良もこの手法が多い。
そのため個人で品種改良を志す変態たちにとって野の草木は特に大事な遺伝資源である。
誤解しないでもらいたいが、各地の農学研究者や種苗会社も野生種や古い伝統品種を用いた品種改良を昔からそして現在も行っている。
ただ、野生種は同じ種でも無限に近いほどの変異があるため、プロの研究者や育種家が集めた優れた野生系統よりも君たちが何気なく通り過ぎる、または踏み潰す道端の野生の雑草の方が優れた形質を持つ可能性が十分あるのだ。
品種改良を後輩に引き継げる組織の人間は地道にちょっとずつ完璧な品種を目指せば良いと俺は思う、だが限られた寿命で結果を出さなければならない個人の育種家は後輩に引き継ぐことは有り得ないので地道な交配よりも変異の大きい交雑に重きを置くべきだろう。
野生の植物のひとつひとつの変異を見出すことは誰しもあるだろうが、そこにどのような可能性が潜んでいるか?有用な変異であるか?それをまず想像出来るかどうかが観察眼の精度を上げる一つの鍵である。
農家や育種家が枝変わりなどの突然変異を見つけやすいのも日々養われた観察眼によるものだ。
2023年4月現在、NHKの朝ドラで日本の植物学の父ともいわれる牧野富太郎を題材にした“らんまん”というドラマが放送されていると思うが、彼のようにどういてそがな違いがあるがか?常に疑問を持つこと、既存の型を疑うことも観察という1点に対して言えば重要な心持ちの1つである。
さて、何の話をしようとしたか忘れかけてきたのでそろそろ本題にはいろう。
これが何に見えるだろうか?
そう質問すれば多くの人間がこう答える。
「サンチュ?焼肉巻くやつ〜」
だがしかしこれはタンポポである。
ついこないだ河川敷でバカみたいにドでかいタンポポを見つけたのだ。
ある人は日陰にあるタンポポは光を得るために大きく育つのでは無いだろうかと言うが、俺もその可能性は高いと思う。
例えばビワなどは日陰に置くとやたらデカい葉を出すようになり、代わりに花が咲かなくなる。
同じように日陰に適応する過程で大型化しただけの普通のタンポポかもしれない。
ただ、同じエリアでもやたら大型な個体は蕾が異様に丸い。
環境ではなく遺伝による変異であれば日向で栽培しても大型化するだろう。
いくつか採取し栽培してみることとした。
とりあえず言えることは同じエリアでもほとんどの個体は普通のサイズのタンポポであるということだ。
遺伝なのか?環境なのか?
山採りが尊ばれるランなどの花では、野生で良い花をつけていても栽培すると並の花しかつかない場合もあるというが、ドデカタンポポはどうだろうか?たのしみである。
例えば昨年野生下で見つけた変異タンポポは、花や蕾、そして葉が縮緬状に変異したチリチリタンポポだった。
当時のツイートを見ると“法輪丸”と名付けていたようなので、今後は法輪丸と呼ぶこととする。
法輪丸は栽培下でも野生と同様にチリチリした縮緬状の変異を見せた。
ドデカタンポポにも期待したい。
タンポポを食用にすることについての話しだが、
元々ヨーロッパではタンポポの花をリキュールやマーマレードにしたり、葉をサラダにしたり、パンに混ぜたりするのは一般的であり、いわゆる雑草という評価をしているのはおそらく日本くらいであろう。
ギリシャの神話で言えば、ヘラクレスと多くの伝説を共有するアテナイの英雄テセウスが、クレタ島でミノタウロスを退治した後にタンポポのサラダを食べたという話しもあるほどに古くから食用とされている。
ちょっとグルメな人は軟白栽培されたタンポポがピサンリと呼ばれるフレンチの高級食材であることを知っているだろう。
ピサンリの名は小便を意味するが、タンポポはカリウムを多く含むため軽い利尿作用があるというところからついた名前のようだ。
野菜としてはチコリーに近い。
成分的にもタンポポはチコリーの抗酸化物質であるチコリ酸を含む。
画像はシーザーサラダと肉巻きだが、初心者には野菜の苦味を和らげるシーザードレッシングをおすすめする。野菜のちょっとした苦味を気にしない人にはすりおろしオニオンドレッシングが良いだろう。
肉巻きは味も食感も見た目もほぼサンチュだ。
苦味があるとはいえ近い野菜のトレビスと比べてもはるかに弱い苦味しかないのでそう身構える必要はない。
そしてこの苦味成分はタラキサシンと呼ばれるもの主体のようで、エストロゲンの過剰分泌を抑えホルモンバランスを整えたり、消化を促進する効果があると言われる。
カナダでは全草を、ベルギーでは花弁をハーブとしてビールベースの酒に使うと言うが、ほのかな苦味もビールに合うのかもしれない。
飲料で言えば、日本でもタンポポの根を焙煎して作るタンポポコーヒーが製品化されたりもしているが、タンポポはキクイモなどと同じく天然のインスリンとも呼ばれるイヌリンが多く含まれるため、血糖値の上昇を抑えたり腸内環境改善にも期待ができるようだ。
海外のサバイバリストは綿毛を除いた種子を非常時の食料の1つに利用することもあるため、タンポポは根、葉、花、種子の全草が食用になると言える。
また、ラットやウサギにタンポポを与える実験では抗酸化作用、抗肥満への効果が認められたという論文もある。
つまりただのスーパーフードである。
他によく言われるのは銅や亜鉛などミネラルの供給源であるという話だ。
パンケーキなどにタンポポの蕾を混ぜてキクの香りをつける話はよく聞くが、今回新しい食べ方を見つけたのでここに共有する。
タンポポは綿毛を球状に広げるために、種子の成長と共に花托が肥大する。
その花托をアーティチョークのように食用とするのだ。
キクの香りとほのかな苦味がアーティチョークのコンスピネ種に近い。
アーティチョークの花托のような豊かなデンプン感はないためアーティチョークの花托というより歯でしごいてちょっとずつ食べるアーティチョークの花弁の根元部分に食感が近い。他に例えるなら柔らかいタケノコといった感じだろう。
マヨネーズでも十分美味いが、マヨネーズ、アンチョビ、パルミジャーノを合わせて加熱したバーニャカウダソースでも美味しい。
ちなみに指でつまむところとして残している花梗も普通に食えるのでお好みで食べたら良いと思う。
読者の中に料理音痴の方がいるかもしれないので一応下処理の仕方を書いておこう。
①まず花が終わって綿毛を飛ばす直前のものを手に入れる。ガクを除いて10円玉ほどの直径があるものが良いだろう。
②次に綿毛を引き抜き種子を取り除く。まだしぼんだ花弁が残ったものは種子が未熟で綿毛ごと引き抜けなかったり花托がボロボロになってしまうので、できるだけ熟した種子があるものを選ぶと良いだろう。
③そして総苞片を全部取り除いたら完成。あとは軽くボイルしてソースつけて食べるだけ。
蕾の時点で花托が肥大しているアーティチョークと異なり、タンポポの花托は種子の成長と共に肥大するため、綿毛が開く寸前が一番花托が肥大しきっているといえる。綿毛が開いてしまえば花托は乾燥してカチカチになるから収穫時期の見分け方が一番大切かもしれない。
ちなみにタンポポには古典園芸品種がいくつかありこの“翆玉”も観賞用としてはそこそこ有名だ。
味もよく食感も面白い。
いつだったかキャベツのように結球するタンポポがあったようだが本物だろうか?それとも幻だろうか?
まぁそんな感じでタンポポは味がよく、有用な栄養分を多く含み古代から現在まで広く食用にされていたものなので、タンポポを食用にすることは別段おかしな話ではない。
タンポポは野菜である。
以上。