流れる季節の真ん中でふと食べたくなるときもあるだろう、せわしくすぎる日々の中に豊かさを演出してくれる嗜好品、それがメロンだ。
同じくウリ科の果菜として並び称されるスイカはどのスイカでもスイカ味だが、メロンは品種ごとに全く異なる。
そこに俺は夢を描く。
普通、日本の人々がメロンとして思い浮かべるのはアールスメロンだろう。
レティクルのないレティクラトゥス種でガリアメロンと呼ばれるタイプのものだ。
ただ、栽培している人は知っていると思うが幼果にはレティクルがある。
レティクルとは元々、銃の照準器についている十字模様のこと。
上から見るとレティクルのようにスジが入っている状態のメロンに対する表現だ。
リブがあるという言い方もする。
画像は糖度20に達するというトルクメニスタンのハバルマンというレティクラトゥス種に甘露系マクワの真渡瓜を交配された系統のアナウ114とやらに、夏の思い出というドゥダイム種が交配され出来たとかだったっぽい品種。
チャルジョウ農場の才色兼備という品種だ。
糖度は低めだが、ドゥダイム種特有のパッションフルーツの香りと、グアバの後味を持つ面白い味わいに仕上がっている。
このように様々な系統のメロンを組み合わせることによりあらゆる味わいのメロンを生み出すことが出来るのがメロンの面白いところ。
ドゥダイム種とはクイーンアンズポケットメロンとも知られ、おそらく夏の思い出とやらもトルクメニスタンでのクイーンアンズポケットメロンの流通名ではないだろうか?
クイーンアンズポケットメロンはスチュアート朝(イングランド王国、スコットランド王国)が統一されイギリスになる直前の時代の君主であるアン女王が、パフューム代わりにポケットに入れていたとされる香りがかなり強い赤皮に金のシマシマがある小さいメロンだ、プラムグラニーとも呼ばれる。
おそらくだが同じ色のリッチスイートネスなどの海外品種もドゥダイム種の遺伝を持つメロンなのだろう。
実はメロンにはメロンとは思われていないメロンがいくつかある。
例えば古代のヨーロッパで栽培されていたいくつかのキュウリは、実はメロンである。
現在ではヘビメロンとして知られるフレクスオスス種も元々キュウリとして流通していたものだったという。
他にはイタリアでキュウリメロンとして知られるカロセッロは、完全に日本で言う銀マクワタイプのメロンだ。
画像はチャルジョウ農場の最大5kgに達するという巨大メロンの文武両道だが、
文武両道は漬物用の縞瓜とのハイブリッドだという。
つまり漬物用の瓜もメロンの1種であるという事だ。
漬物用の瓜はコノモン種のメロンのことだろう。
文武両道は食感がハネデューメロンに近く糖度は低めだった。
見た目のインパクトは凄い。
チャルジョウ農場は画像の飯豊メロン(いいでメロン)推しのように感じるが、確かにこの糖度は驚異的だ。
飯豊メロンの面白いところは果皮に近付くとカリカリの食感になるところで、しかもその部分も甘味が強いことだ。
自信作なのだろう。
ただ、俺が最も美味いと感じたのは、食感がレティクラトゥス種メロンに近い西会津メロンだ。
日本の青肉メロンで最も美味いと思う。
チャルジョウ農場の面白いところは、元々代表の小川光さんが海外の乾燥地帯で水の少ない環境での農業を研究した人なので、特殊な栽培方法を用いることだ。
小川光さんのトマト・メロンの自然流栽培という本を呼んだ事がある人もいるだろう。
俺がチャルジョウ農場を知ったのもこの本からだ。
娘さんが産直ECでメロンやトマトを販売しているので探して見ると良い。
栽培方法で面白いと思ったのは台木のカボチャにもあえて実をつけたり、殺菌作用のある桜の落ち葉を土作りに利用したり、害獣からの果実の保護にカゴをつけることとかかな。
銀マクワ系である甘露は北海甘露がかなりの価格で出回るが糖度は11程度だ。
面白いのは果肉よりも種子を包むゼリー部の味が強いこと。
香りはアールスメロンに近い。
現在、銀マクワは市場でほとんど見られないが、その衰退には金マクワが関係している。
香りと清涼感はあるがぎりぎり甘味を感じる程度の銀マクワと、きちんとフルーツとして感じるレベルの糖度を持つ金マクワを比べれば嗜好品としては金マクワに軍配が上がるだろう。
金マクワと言えば、韓国のチャメが最近日本でもよく販売されているが、
これは日本から1957年に韓国に導入された銀泉マクワ由来だが、画像の左2つがチャメで右の大きいのが銀泉マクワだ。
韓国人は日本にはチャメがないから韓国のが上だと言うこともあるらしいが、そもそも元は日本の品種だ。
一応1975年に銀泉マクワの欠点を無くしたとしてシンウンチョンメロンなるものが開発され、チャメになったとしているが
糖度も味も韓国の小さいチャメと日本の大きい銀泉マクワとでさほど変わらない、銀泉マクワが1番低いが誤差の範囲である。
銀泉マクワに限らず、マクワ瓜の多くは雌花にも雄しべがある両性花であるため
韓国の人は交配させたつもりで自家受粉種子を取ったのかもしれない。
いつか栽培して比べて見よう。
韓国の人はこのページを見て、俺が韓国を貶めるためにわざと小さいチャメを検証に使ったと言いたいかもしれないが
今回のチャメは一個はイオンで販売されていたもので、もう一個は上野のアメ横までいってセンタービルのわざわざ地下で買ったものだ。
そこまでして探しても日本では韓国のチャメは小さいものしか見つからなかった。
もし文句があったら日本には大きく作った物を輸出してくれ。
銀泉マクワは菊メロンと黄マクワのハイブリッドとされるが、
菊メロンとはかつて悠紀マクワと呼ばれた滋賀の品種で、暑さに強く暑くとも糖度が上がる品種である。
糖度と味は銀泉マクワに近い。
わざわざ栽培するほどの味じゃないという人もいるが、きちんと作ればなかなかに美味い。
金マクワ系マクワは完熟すると中にハニーデューがたまり、切った時に全部こぼれるため
ピーラーで皮を剥いて上部をカットしてマクワそのものを器にして飲むと良い。
ここにラムやブランデーを混ぜても美味い。
マクワ系には他に梨瓜という白皮白肉の系統があるが、これはメロンなのにスイカのようなシャリ感がある品種。
画像のタイガーメロンや加古川メロンは緑肉のマクワだがこれは食感は梨瓜に似たタイプだ。
シャリ感のある緑肉マクワは甜掉牙などと同じくカワズウリ(蛙瓜)タイプのマクワと称するのが良いかもしれない。
面白いのはアメ横で見つけた明らかに梨瓜の見た目で梨瓜の食感なのに、香りが強くほんのり赤肉のメロンだ。
品種名もなにもかも不明だが中国品をよく売ってるところなので中国の品種だろう。
カンタロープと言えば全ての赤肉メロンの先祖だが、日本でよく見る品種で味わいが近いのはクインシーメロンだ。
これは見た目と食感がアールスに似る以外は風味も糖度もカンタロープに近い。
たまにマルセイユメロンをみるが、レティクラトゥス特有のレティクルがあることから、レティクラトゥスとの交雑の歴史があるカンタロープの1種なのだろう。
フランスで言うシャラントメロンや、イタリアで言うオルトラーニと同じタイプのメロンだ。
たしかプリンスメロンもシャラントメロンの交配種だった気がする。
日本でよく出回るレティクルのあるレティクラトゥス種はアムスメロンくらいだろう。
ただ、品質にバラつきが多い。
アムスメロンはアムステルダムのオーゲンメロンが元になっている品種だが、
オーゲンメロンはレティクラトゥス種の中でも有名なメロンだ。
俺のメロンの交配にもオーゲンメロンが利用されている。
カンタロープで最も味が良かったのはイタリアのマントヴァ県産の、ゼルビナッティ家のジョリーメロンだ。
切る前から凄まじい香りがして、糖度もなかなかある。
大量生産で未熟なものが出回るプリンスメロンやハネデューメロンのせいでノーネットメロンは味が悪いイメージがあるが、
赤肉メロンで最も美味いのはノーネットのジョリーメロンだった。
生ハムメロンという食べ方があることを知っている人もいるだろう。
もしくは試した人もいるのではないだろうか?
調べると甘くないメロンを食べるための食べ方みたいな話や、コンビニ生ハムとハネデューメロンやアールスメロンで生ハムメロンを試して微妙だった、
などというバカみたいな話しがよく出てくる。
そもそも生ハムメロンはメロンの食べすぎで死んだローマ帝国皇帝フリードリヒ三世の事件が発端で生まれた料理だ。
フリードリヒ三世はメロンの食べすぎで体が冷えすぎたため死亡したとされたため、逆に体を温める食材とされる生ハムを合わせただけの話し。
そして当時のイタリアのメロンはアルメニアから持ち込まれたカンタロープ種のメロンだ。
つまりカンタロープとプロシュートで作るのが本当の生ハムメロンのあり方という話しである。
実際カンタロープとプロシュートで生ハムメロンを作ると、カンタロープの強い香りと十分な甘さに、生ハムの熟成したナッティな香りと強めの塩味がよく合う。
カンタロープ以外のメロンでは香りが足りなく、コンビニ生ハムでは塩味が足りないのだろう。
日本ではアールスメロンをマスクメロンと呼ぶが、カンタロープも同じくマスクメロンと呼ばれる。
ただ、イタリアのザッタやフランスのプレスコットフォンブランなどの古典的なカンタロープはカボチャと見分けがつかない見た目をしている。
和名ではアールスなどのレティクラトゥス種をアミメロン、カンタロープ種をイボメロンと呼ぶ。
ハネデューメロンやハミウリなどのイノドルス種は熟すまでの期間が長いためフユメロンと呼ばれる。
画像は修一のマーブルメロンだが、これはスペインメロンの1種に見える。
詳しくは知らないが、これもフユメロンの1種では無いだろうか?
とんでもなく甘く、白肉で最も美味いメロンだと思う。
栽培が難しく作れる人が限られるようなので、引き続き修一には頑張ってもらいたい。
これまで挙げてきたメロン以外に、日本にはかつて30種類ほどの野生のメロンが存在した。
昔、大阪の藤下典之教授が日本中をまわり研究していたものだが、
開発や宅地の広がりによりほとんどがもう野生に存在しないという。
瀬戸内の島々や遺跡などに生えていたらしいが、見つけたら送ってほしい。
まぁ、いずれ自分で探しに行くと思うけどね。
TVでよく放送されるのは鬼ヶ島aka女木島の野生メロンで、JMG-16というメロンだ。
Jはジャパン、MGは女木島ということだろう。
完熟するとメロンの香りがするが、味はほのかな酸味と若干のエグミがあるキュウリである。
糖度はスズメウリより低い。
ただ、日本の野生メロンにはマクワ瓜をそのまま小型にしたようなタイプや、ネットメロンのように網目があるタイプ、そして古典的なカンタロープのようにイボがあるタイプもあるので面白い。
問題は野生メロンは古代に持ち込まれて野生化したメロンと見られているが、別に耐病性が優れるわけではないということだ。
果実は大量につけるので、生き残った少数の個体が大量に種をバラ撒くことにより生息数を維持してきたのだろう。
つまり色々な場所に種子が拡散され、いくつかが適地に辿りつかねば滅びるわけだが
野生メロンを食べた自分の排泄物を解剖してメロンが糞媒植物であることを突き止めた藤下典之教授の話しをみると
酪農の衰退が野生メロンの衰退に直結しているという。
メロンは害虫に弱いが、メロン、スイカ、カボチャを並べて栽培するとカボチャのみが害虫の被害にあった。
それでも実がなるカボチャは凄いと思うが、メロンの栽培にこれを応用出来たら面白い。
とはいえモザイクウイルスでほとんどのメロンは芽が上手く伸びなくなり壊滅するため、アブラムシ被害がない環境で栽培するのが1番だろう。
メロンの味がするというペピーノドゥルセという植物があるが、確かにメロンっぽく感じるしメロンより病気に強く栽培しやすい。
ただ、それほど実がならない場合もあり、極端な暑さ寒さにも弱い気難しいヤツだ。
今後の品種改良に期待ですね。
そうそう、チャルジョウ農場のメロンたちの種皮は袋状に取れるのでタピオカの代わりにすると面白い。
試してみると良いだろう。
レティクラトゥス種にはアールスのようなガリアタイプとオーゲンのようなレティクル状のリブがあるタイプがあり、特徴は高い糖度とそこそこの香り。
カンタロープ種にはレティクラトゥス種と交雑したようなものや、ノーネットのもの、そして古典的なカボチャ型なものがある。全てに共通するのは赤肉であることとカットする前から香るほどの強い香り。
レティクラトゥスとカンタロープに共通するのはマスクメロンという呼び名と甘い香りだが、日本ではカンタロープはカンタロープと分けて呼ばれることもある。
まぁ、普通はこれくらい覚えておけば問題無いかもしれない。
レミオロメンて、レモンメロンに見えるよね。